第1章 平塚の素顔：歴史と風土が織りなす物語

平塚のアイデンティティを理解するには、まずその土地が持つ自然の恵みと、積み重ねられてきた歴史の地層に触れる必要があります。温暖な気候が育む豊かな食、そして日本の歴史を動かした人々との深い関わり。ここから、平塚の核心に迫ります。

1.1 湘南の恵みと風土

平塚市は、神奈川県の中央南部に広がる湘南エリアの中核をなす都市です。西には箱根の山々を遠望し、南は雄大な相模湾に面しています。市内を流れる相模川がもたらす肥沃な沖積平野と、なだらかな砂浜海岸が特徴的な地形を形成しています。

この地の最大の魅力の一つは、その温暖な気候です。海洋性の気候の影響で冬は暖かく、夏は海からの風が心地よい。年間を通じて日照時間が長く、非常に過ごしやすい環境が整っています。この気候は、人々の暮らしやすさだけでなく、この後述べる豊かな農業の礎ともなっています。

大地の恵み：農業が息づく街

平塚の温暖な気候と肥沃な大地は、古くから質の高い農業を育んできました。特にトマト、キュウリ、バラなどの施設園芸は生産性が高く、神奈川県の農業を牽引する存在です。

中でも、平塚の農業を象徴するのが、二つの特産品です。

• 平塚生まれの米「はるみ」: 全農営農・技術センターが開発したブランド米。「湘南の晴れた海」から名付けられ、強い甘みとツヤが特徴です。神奈川県産米として初の最高評価「特A」を獲得し、平塚の農業技術の高さを全国に示しました。
• 幻の平塚「クリマサリ」: 「栗に勝る」ほどの甘さを持つサツマイモ。水はけの良い砂質の土壌で育ちますが、市場にはあまり出回らないため「幻の芋」とも呼ばれています。その希少性と味わいは、平塚の土地が育んだ特別な恵みと言えるでしょう。

1.2 時代を刻んだ人々

平塚の歴史は、単なる地方史にとどまりません。日本の大きな歴史の転換点において、この地は重要な役割を果たしてきました。特に鎌倉時代と江戸時代、二つの時代を軸にその足跡を辿ります。

鎌倉幕府、草創の群像：「鎌倉殿と平塚の七人」

12世紀末、源頼朝が平家打倒の兵を挙げた時、その草創期を支えた有力武士たちの多くが、現在の平塚市周辺を本拠地としていました。彼らは「鎌倉殿と平塚の七人」として知られ、平塚が鎌倉幕府誕生の揺りかごの一つであったことを示しています。

東海道の要衝：平塚宿の繁栄

時代は下り江戸時代。慶長6年（1601年）、徳川家康によって東海道が整備されると、平塚は日本橋から数えて七番目の宿場「平塚宿」として指定されました。家康が鷹狩りの拠点として中原御殿を構えたこともあり、平塚は交通の要衝として大いに栄えました。宿場町には本陣・脇本陣のほか、約50軒もの旅籠が軒を連ね、多くの人々、物資、情報が行き交いました。

第2章 今、平塚で出会う魅力

歴史の舞台から現代へ。現在の平塚は、歴史の薫りを残しつつも、湘南らしい開放感と新しい魅力に満ちています。口コミやランキング情報を基に、今の平塚で体験すべき「味」と「場所」を厳選して紹介します。

2.1 平塚の味覚探訪

旅の醍醐味は、その土地ならではの食文化に触れること。平塚には、市民に長年愛されるソウルフードから、美食家を唸らせる名店、そして持ち帰りたくなる逸品まで、多彩な味が揃っています。

一杯に宿る魂：平塚タンメン「ラオシャン」

平塚の食を語る上で絶対に外せないのが、市のソウルフード「平塚タンメン」、通称「ラオシャン」です。一般的なタンメンとは全く異なり、透き通ったスープに細い麺、具は刻みタマネギとワカメのみ。最大の特徴はスープの酸味です。この独特の味わいが人々を虜にします。卓上の自家製ラー油で味を変えるのも楽しみ方の一つ。この味は、昭和32年（1957年）に「老郷（ラオシャン）本店」の創業者が、旧満州での食文化から着想を得て生み出したものです。

持ち帰りたい平塚の味：特選お土産ガイド

• 伝統工芸品: 江戸時代から続く「相州だるま」は、平塚を代表する民芸品。縁起物として喜ばれます。
• グルメな逸品: 国際的な賞も受賞した「やまと豚ロースハム」や、福神漬けが入ったユニークな「弦斎カレーパン」が人気です。
• 心ときめく和洋菓子: 碁石を模した「ひらつか囲碁最中」や、オーストリアの伝統菓子をアレンジした「ひらつかリンツァー」は、新しい定番土産です。

2.2 人気観光スポット

豊かな自然と市民の憩いの場が融合した、魅力的なスポットが平塚には点在しています。

1. 湘南平（高麗山公園）
   標高約180mの丘から360度の大パノラマが広がる絶景スポット。西に富士山、東に江の島を望み、夜景100選にも選ばれた夜景は圧巻です。「愛の南京錠」発祥の地としても知られます。
2. 平塚市総合公園
   広大な敷地を持つ市民のオアシス。大型遊具や水遊び場、無料で楽しめる「ふれあい動物園」など、一日中いても飽きないほど施設が充実しています。
3. 花菜ガーデン
   四季折々の花々が楽しめる関東有数の植物園。特に有名なのが、様々な品種のバラが咲き誇る「薔薇の轍（わだち）」で、春と秋のローズフェスティバルは多くの人で賑わいます。
4. 平塚海岸・湘南ベルマーレひらつかビーチパーク
   全長約4kmにわたって続く、自然のままの素朴な砂浜が美しい海岸。ビーチパークではビーチスポーツを一年中楽しむことができ、湘南の海を満喫できます。

平塚の魅力は、その「再生の物語」にもあります。現在の平塚を象徴する夏の一大イベント「湘南ひらつか七夕まつり」は、1945年の空襲で市街地の大部分が焼失した後の復興を願って始められました。きらびやかな七夕飾りを見上げる時、その背景にある街の力強い復興の物語に思いを馳せることで、旅はより深いものになるでしょう。

第3章 平塚を歩く：テーマ別散策ルート提案

平塚の魅力を効率よく、そして深く味わうための3つのモデルコースを提案します。歴史、自然、食。あなたの興味に合わせて、自分だけの平塚物語を紡いでみてください。

第4章 旅の終わりに：明日また来たくなる街、平塚

平塚の旅は、私たちにこの街が持つ豊かなレイヤーを見せてくれます。鎌倉武士の力強い息吹、東海道を行き交う人々の喧騒、戦後の灰燼から立ち上がった市民のエネルギー、そして現代の湘南カルチャー。これらすべてがモザイクのように組み合わさり、「平塚」という一つの魅力的な街を形作っています。

この街の魅力は、一年を通じて様々な表情を見せてくれることにもあります。訪れる季節ごとに、異なる感動があなたを待っているでしょう。

• 春 (3月～5月): 湘南平や総合公園の桜が満開に。花菜ガーデンではローズフェスティバルが開催され、一年で最も華やかな季節です。
• 夏 (6月～8月): 「湘南ひらつか七夕まつり」の季節。豪華絢爛な飾りが街を彩ります。平塚海岸での海水浴や花火大会も夏の風物詩です。
• 秋 (9月～11月): 過ごしやすい気候の中、歴史散策やハイキングに最適。新鮮な農産物が最も豊富な時期でもあり、食欲の秋を満喫できます。
• 冬 (12月～2月): 空気が澄み渡り、湘南平からは雪を頂いた富士山の最も美しい姿を望めます。温かいラオシャンのタンメンが心も体も温めます。

平塚は、一度訪れただけでは語り尽くせない奥深さを持っています。それは、ただの観光地ではなく、歴史と今が共存し、人々の暮らしが息づく場所だからです。このガイドをきっかけに、あなたが平塚を訪れ、自分だけの物語を見つけてくれることを願ってやみません。湘南の心地よい風を感じながら、歴史の小道を歩き、この街の温かさに触れてみてください。きっと、またすぐに戻ってきたくなるはずです。